マクロスプラス

t-akata2009-11-14

超時空要塞マクロスを制作したオリジナルスタッフが手掛けた
後に続くマクロスシリーズの「本流」となる作品。

初代よりもより「三角関係」の描写に重点を置いた作風を取っており、
「馬鹿で無鉄砲な不良・イサム」、「生真面目で実直な優等生・ガルド」と「学園祭のアイドル・リュン」の幼馴染み三人が、大学時代のある出来事をきっかけにばらばらになり、
偶然故郷の地で再会するところから物語は始まる。

過去の出来事を引きずったままの男二人が女一人を取り合い、
そこに三人を巻き込むさらなる「事件」が起こり、
三角関係が決着してゆくというストーリー展開はトレンディドラマそのものだが、
登場人物それぞれの内面はかなり繊細に描き出されており、見応えのあるドラマに仕上がっている。

その一方で、SF要素として「人間の脳とコンピュータを直結したらどうなるか」という発想のもとに、「脳波で操縦するテストタイプバルキリー」や「脳波で感情を増幅する(?)バーチャルアイドル」などが登場し、これらが「三角関係」を決着させるドラマ展開における「事件」のキーとなっている。
トレンディドラマ的な恋愛模様が緻密なSF設定を土台として織り成され、「月九」と「変形メカ」が違和感なく共存するという
完成度の高い作品世界を作り上げている。

本作は、OVAシリーズとして展開し、その後劇場版として新作カットを加えて再編集版が公開された。
劇場版は、初代ほどの「読み替え」はされておらず、
同じストーリーを追いつつ、より人物描写にフォーカスした仕上がりとなっている。
後発の劇場版の方が総じてハイクオリティではあるが、
劇場版は「OVAでは描ききれなかった」部分の補完的な意味合いを持ったカットも少なからずあるので、
順番に両方観ることをお薦めする。

と、ここまで絶賛してきたが、時代のせいかツッコミ所もある。
①本編だけでは、結局ミュンが歌をあきらめた理由がよくわからん。
速水奨が何のためにシャロンに心を求めたのか良くわからん。そしてあんな死に方はねーよ。
③さすがに歌で人間までコントロールするのは…。
シャロンがコードでミュンを縛り上げるのはさすがに無理があるんじゃ…。

①と②は単なるぼやきだが、③と④は無理やり解釈することもできる。

③この時代になるともう脳科学はかなり進歩しており、
外部からの物理的刺激(音楽)によって脳内物質の分泌をコントロールすることが可能になっており、
かつ、それが社会的な娯楽として認められているため、
シャロンのような活動が可能になっている。

④aこの時代のコンピューターは、
「接続」という行為すら自律的に行うことが許されており、
性能の高いコンピューターは、自身の行動に最適な「接続」を行うため、
自在に可動するコードを有している。

④b実際は縛ってない。シャロンがミュンの脳に干渉して見せた幻。

まぁ逆に言えば、SF的にはこれぐらいしか大きなツッコミ所が無いという、
それほどの作品だったとも言える。

そしてそんな些細な問題は、
OVAクオリティで爆発する美麗な空中戦や、
菅野よう子の劇伴の前には霞んでしまうだろう(※ちなみに本作は菅野よう子が初めて担当したアニメ作品である)。

そして「声」と「歌」とで別々の人間を起用したのも本作からである。

これらの点で現在につながるマクロスシリーズの「軸」となる要素を整備し、
マクロスは某機動戦士みたいなヒロイック路線じゃないんだぜ!」と高らかに宣言した
意欲作「マクロスプラス」。
実は「マクロスⅡ」とか当時の美少女系OVAとかよりも売れてなかったそうですが、
マクロスF劇場公開前にもう1回観ておいてもいいんじゃないでしょうか。