マクロスゼロ

t-akata2009-12-01

劇場版マクロスF熱がどうしようもなくなったので、TSUTAYAで借りられるだけのマクロスFのCDを借り、初のマクロスFプラモ(よりによって一番でかくて重くて高いヤツ)を購入。プラモデルに関しては、実は結構ブランクがあったせいか、バンダイ驚異のメカニズムに驚嘆しつつ、パチ組みなのに「右腕を作ったら左腕を作るのがもうめんどくさい型感染症」を発症してしまい、早くも箱の上にfigmaやねんどろの箱が積み上がる始末。
年内には組み上がるとは思うけど…。


マクロスゼロ

「ゼロ」のタイトルが示す通り、現在のマクロスシリーズにおいて最も過去の出来事を描いた物語である。
舞台はマクロス落下後、地球に誕生した統合政府と、それに対立する反統合政府同盟との激しい戦闘が各地で起きている時代で、ようやく空間戦闘を想定した可変戦闘機(バルキリー)が開発された時代である。
まだ人類は宇宙空間での戦闘もしていないし、ゼントラーディも出てこないので、SFテイストを存分に発揮している他の作品と比べると、全く別の作品のような印象を受ける。マクロスがもたらしたオーバーテクノロジーが浸透しきっていない時代設定であるため、SF要素が少なめな上に、マクロス知識もそれほど必要とされない。そのため、マクロスシリーズを知らない人でも見られる内容となっている。もちろん、以後の歴史を描いた作品につながる重要な要素も登場するので、シリーズを知る人はより楽しめる内容となっている。と、ここまで書いて、「これまでのマクロスをしらなくても…」という点については、他の作品にも結構当てはまることに気がついた。マクロスシリーズは、作品世界を共有しながらも、発表時期が結構飛び飛びなため、毎度毎度新規のファンを取り込めるように配慮されているんだろう。その辺の分析はそのうちやりたいと思います。

本作品は、シリーズの中でも、特に河森正治の作家性が色濃く出ている作品だと思われる。
おおまかなストーリーラインを書き出すと、以下のようになる。
来たるべき異星人とのコンタクトを想定し、地球圏を統一するべく拡大を続ける軍隊(統合政府軍)と、それに反発する反統合軍との軍事衝突が各地で頻発している。その二つの軍隊が、南洋のとある島に眠っている古代文明の遺産(プロトカルチャーの残したオーバーテクノロジーの産物)をめぐって争う。主人公(シン)は統合政府軍の若きパイロットで、戦闘中に撃墜されてその島に落ちる。そこでその島の先住民族の少女(サラ)と出会い、互いに惹かれあってゆくが、なんとその少女は、遺跡の力を引き出す重要な鍵だったのだ。主人公たちの抵抗も空しく少女を取り込んで発動してしまう遺跡の力。はたして、主人公たちは、暴走する遺跡を止めることが出来るのだろうか…! 少女を救うことができるのだろうか…!!
という、どうにもこうにも擁護しようの無い、何とも「ありがち」なお話なわけだが、このテンプレを使って河森正治マクロスを作ると、多分に監督の思想が含まれた作品が出来上がる。
もともとマクロスは、「異文化の邂逅」というテーマを扱う作品でもある。本作では、異星人こそ登場しないが、最先端の文明と、「神話」や「掟」を守りながら生活する少数民族との邂逅が描かれる。すでに外からの文明に取り込まれつつある村は、プロトカルチャーの遺産をめぐる争いに巻き込まれ、蹂躙されてゆくことになるわけだが、ここに至る過程の描かれ方は、急速な文明化・グローバリゼーションへの問題提起とも受け取れる。都会の生活に慣れきった頭では「便利になるんだからいいじゃないか。」と、つい思ってしまうが、「『便利』『便利』と、そう言ってお前たちは『便利』を押し付ける!」というサラの言葉にはハッとさせられる。
また、本作品内で扱われる「原初の生物とプロトカルチャーの邂逅(?)」や「人類とマクロスの邂逅」、その後の歴史で語られる様々な異文化との邂逅と対置させてみるのも面白いかも知れない。
テーマ部分が先行しがちな本作ではあるが、ビジュアル表現の面においても注目しておきたい点がいくつかある。
OVAシリーズの刊行が2002年〜2004年という期間に渡ったこともあり、1巻と最終の5巻では、デジタル技術・3DCG技術の向上が明瞭である。1巻の時点でのCGは、この時代にしてはかなりレベルの高いものではあったが、「これで板野サーカスができるのか?」と、不安を覚えるクオリティだった(マクロスFを観ているので余計に)。それが最終巻では、そこらのゲームなんか目じゃないくらいの美麗な空中戦を展開してくれるまでになっている。スタッフのたゆまぬ試行錯誤があったことが伝わってくる「見せ場」でもある。

本作の内容は、マクロスFでの劇中劇「鳥の人」として登場するので、興味を持った人は、観てみるといいんじゃないでしょうか。マクロスFみたいなエンターテイメント性は薄いので、Fから入る人はビックリするとは思いますが。
逆に、こんなテーマ性の強いものを作った後に、ガッチリとエンターテイメント方向に舵を切れるマクロスシリーズの懐の深さというか河森正治はすごいなぁと思いました。