SF設定がカタルシスを生む“仕掛け”として機能する「いばらの王 KING of THORN」

いばらの王

近未来。致死率100%の新型ウイルスが世界中に広まり、人類はその脅威に震撼していた。
感染した者は全身の細胞が硬化したのち死にいたることから「メドゥーサ」と名付けられたそのウイルスに対し、人類は有効な治療法を見出すことができていなかった。
そんな世界規模での混乱が続く中、大手化学企業「ヴィナスゲイト」は、コールドスリープによって少数の感染者を治療法が開発されるまで眠らせておく計画を発表。公募により160名が選出された。
メドゥーサによって両親を失ったカスミは、付き添いで同行してきた双子の姉シズクとともに、「コールドスリープカプセルセンター」に向かうバスに揺られていた。二人ともメドゥーサに感染しているにも関わらず、姉ではなく自分が選出されてしまったことに負い目を感じながら…。


コールドスリープカプセルが開き、目を覚ましたカスミの目の前には、信じられない光景が広がっていた。施設は巨大ないばらの蔦で覆われ、職員たちの姿は無く、異形の怪物たちが徘徊する迷宮となっていた。
一体何が起こったのか。
どれだけの時間が経ったのか。
そしてカスミたちは無事脱出することができるのか。



同名漫画を原作とする劇場アニメ作品。怪物が徘徊する迷宮に閉じ込められた男女7人の脱出劇を描くSFサスペンス・アクション映画(?)。
近未来を舞台にしたSF作品であるため、初見で物語の全容を掴むには、多少のSF(科学分野)への理解力、あるいは原作を読んでいることが前提とされる。
大まかな流れとしては、世界設定や人物背景などを説明するプロローグ部分、事件発生から少人数による脱出劇、すべての謎が解明されるクライマックス部分といったオーソドックスな構成となっている。
ただ、本作の主人公は「社交的で活発な双子の姉に対してコンプレックスを持っている」という、やや特殊なキャラクターだ。なぜこんな背景を背負ったキャラクターが、内面の描写までされつつ物語の中心になっているのか、それらはすべての謎とともにクライマックスで昇華されるので、それに至るヒントを見逃さずに最後まで観ていただきたい。
それでもSFに自信が無いという人のために、ネタバレにならない程度にヒントを出しておくと、「何がこの事件の引き金となったのか」「メドゥーサとはどのようなウイルスだったのか」「コールドスリープ施設の管理システム『アリス』に与えられた役割と機能(施設の制御および患者の『夢』の操作)」。これらのポイントに注意して観ていれば、すべての答えと物語を貫くテーマにたどり着けるはずだ。


画面作りの方に言及すると、アニメーション制作はガンダムなどでおなじみのサンライズであるため、作画への不満は特に無い。ただ、クリーチャーをCG主体にしたツケか制作作業上の都合か、アクションシーンで人物CGを多用しているため、画面全体が安っぽくなってしまい、シーンの臨場感や緊迫感を損ねてしまっていたのは残念だ。人物たちが「人形っぽい」印象になってしまい、正直クリーチャーにバラバラにされようが体に穴が開こうがあまり痛くなさそうという印象を受けるというのは、ホラーものとしては致命的ではなかろうか?
とはいえグロシーンが主体では無いので、そこはあまり気にせず本編の流れに乗ることはできます。
余談ですが、クリーチャーのデザインを担当しているのはバンダイの「S.I.C.シリーズ」などでおなじみの安藤堅司氏。これを事前に知っていた私は、「こいつらバンダイから商品化とかされるのかな…サンライズ制作だし」とか考えてて、もうなんか怖いとかそういうのとは別のモノとして観てました。


パンフの紹介文は正直持ち上げ過ぎだろうという気もしなくないですが、巧みに張り巡らされたSF設定からカタルシスに至る流れは、その道のファンならば必見です。2時間という枠の中で、観客が飲み込んだ上で理解でき、且つ面白いという、絶妙な位置に設定された謎たちを、良質なエンターテイメントとして楽しめる作品です。


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