ムキ出しの新房昭之×シャフトが「魔法少女」で切り拓く「オリジナルアニメ」の荒野 〜魔法少女まどか★マギカ〜

まどか★マギカ

あけましておめでとうございます。
本来なら2010年秋期アニメを振り返っておきたいところですが、続々スタートしてゆく2011年アニメたちの中でいち早く言及しておきたい作品がありましたので、先に紹介させていただきます。
2010年秋アニメについては、
次回…うん…やります…かなら…ず…。



[魔法少女まどか★マギカ]
「オリジナルアニメ作品」…。原作付きアニメ作品が跳梁跋扈する日本アニメ界において、めっきり稀少となった感があるジャンルである。
キャラクター玩具販促系番組を除けば、2010年作品で印象に残ったオリジナル作品といえば、「HEROMAN」「Angel Beats!」「アニメノチカラ」枠、「ストライクウィッチーズ2」「パンティ&ストッキングwithガーターベルト」「STAR DRIVER 輝きのタクト」ぐらいだろうか。
放映されている原作付きアニメ作品の数からすればかなり少ないし、またそれなりに注目を集めていたとしてもアニメノチカラオヨバズに枠を維持することを断念せざるをえなかったりと、オリジナルアニメ作品をめぐる現実は厳しい。


原作も無く関連商品の販促も不要な「オリジナルアニメ」は、これに携わるスタッフ・クリエイターたちの個性や能力が存分に発揮されることを期待できる大舞台である。
しかしながら、何もかもを一から作り、且つ成功させることがいかに難しいか、それは現在のTVアニメの中でのオリジナルアニメ作品の比率が雄弁に語っていることだろう。


一つのTVアニメ作品を作り、走り抜けてゆくことを考えると、「原作がある」というのは様々な点でアドバンテージが大きい。
原作をどこまで忠実にトレースするかは別として、キャラ、設定、ストーリーなどは「原作がある」というだけで労力は違ってくるだろうし、作り手全体で作品イメージの共有ができるというメリットは大きい。
広報戦略にしても、原作を抱える企業の側から率先して盛り上げることができるし、原作がどのような層に支持されており、そこからどのように訴えて行けばいいのか、見通しを立てやすくなる。


ひとたび「オリジナルアニメ作品」を打ち出すからには、これらのアドバンテージに匹敵するかそれ以上の魅力を提示していかなければならない。
「DVDを売らねばならぬ」という大前提があるがゆえに、「原作が無い」というだけでオリジナルアニメを世に出すためのハードルは途端に高くなる。


そんな「オリジナルアニメ」という上がりきったハードルに、2011年、新房昭之監督とシャフトが挑む作品が「魔法少女まどか★マギカ」だ。


ごく普通の中学生「鹿目まどか」は、ある日不思議な夢を見る。
廃墟のような空間で一人戦う少女。見たこともない小動物。
夢は唐突に終わり、またいつもの生活が始まるかと思いきや、その日のホームルームで紹介された転校生は、まどかの夢の中で戦っていた少女そのもの…。
それをきっかけに、まどかたちはやがて不可思議な物語に巻き込まれて行く。
なぜ転校生は自分の事を知っているのか。
襲い来る異形の存在の正体は。
そしてまどかの前に再び現れる小動物
「僕と契約して、魔法少女になってほしいんだ」


美少女戦士セーラームーン」、「プリキュア」シリーズ、「リリカルなのは」などに代表される「バトル魔法少女モノ」のごく基本的なフォーマットで、新房昭之監督とシャフトは何を見せてくれるのか。


前述した「原作が無い」というハンデを跳ね返すための要素として、「化物語」「さよなら絶望先生」などでおなじみの新房昭之監督とシャフトのタッグが、「バトル魔法少女モノ」を手掛けるというだけでも十分(しかも新房監督はバトル魔法少女モノの金字塔「リリカルなのは(第一期)」を監督として世に送り出したその人である)だというのに、キャラクターデザインに「ひだまりスケッチ」の蒼樹うめ、脚本にニトロプラス所属の虚淵玄を起用し、こちらも注目を集めている。
可愛らしいタッチでデザインされた蒼樹うめキャラたちが、「ブラスレイター」「Phantom」などハードなドラマ展開が魅力である虚淵脚本の中でどのように活躍するのだろうか。
これに加えて、「異空間設計」という肩書きで映像作家ユニット「劇団イヌカレー」が参加していることも挙げておきたい。
劇団イヌカレーは、実写コラージュなどを多用した独特な画面作りを得意とするクリエイター2人組のユニットで、化物語のいくつかのシーンやOAD獄・さよなら絶望先生(下)のOP映像などを手掛けており、本作でも魔女が作り出す異質な世界をサイケデリックな映像で存分に彩っている。


これら異色の素材たちを、新房シャフトはどのように調和させ「まどか★マギカ」という作品を紡いでゆくのだろうか。
いや、第一話を観た限りでは、これらの要素の不調和から生じる「違和感」すらも、最初から意図されたものであるかのような説得力を持って迫って来ていた。
もはや彼らにとって「原作」はアドバンテージでも何でもない、一つの枷(かせ)でしか無かったのではないかとすら思えてくる。
そこにあったのは「原作」という枷から放たれた剥き出しの新房シャフト作品の姿と言ってもいい。
これはもう「原作がある」アニメたちへの挑戦に留まらない、TVアニメーション表現そのものへの挑戦だ。


己の力を存分に発揮できるステージを与えられた新房監督とシャフトが打ち出す「魔法少女まどか★マギカ」。
必ずや’10年代アニメ史に“爪跡”を残すであろう彼らの挑戦を、最後まで見届けてゆきたい。



☆☆☆☆☆
ちなみに今期はもう一つ、「ハルヒ」の山本寛監督×東浩紀ストーリ原案×「とらドラ」の岡田磨里脚本による「フラクタル」というアニメもノイタミナ枠で放映される。「まどか★マギカ」とは同じオリジナル路線でありながら、こちらは王道テイストで描かれるということで、本作とはまた違った楽しみ方ができるのではないかと期待している。
また、関東地域では「まどか★マギカ」の裏にあたる時間帯に桜庭一基原作で「GOSICK」というアニメがオンエアされている。こちらも非常に面白く「まどか★マギカ」と時間を被らせておくには惜しい作品だ。


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