ギャルゲ原作アニメにおける「分岐」「繰り返しプレイ」導入の試みは定着するのか アマガミ ヨスガノソラ

ヨスガノソラ・アマガミ

週に40本とも50本とも言われる数のアニメが放映されているアニメノクニ日本。
だがそのすべてがゼロからオリジナルで作られているわけではない。
ほとんどがコミックやライトノベルなどの「原作」をベースにして作られている。基本的にこれら原作をもつアニメ作品は、原作の設定やストーリーをトレースし、原作の通りに進んでゆくのが常である。
そんな中、ある程度原作からのアレンジを要求される「アニメ化」作品がある。
ゲーム、とりわけ「美少女ゲーム=ギャルゲー」だ。
(ここでは便宜上「ギャルゲー」を「複数の女性キャラクターが登場」し、「対象を攻略することがゲームの中心」となっており、「複数のエンディングが用意されているため一度のプレイでは完全にクリアしたことにならない」作品の総称とする)



古来より、ギャルゲーのアニメ化には特有のジレンマが付きまとっていた。
基本的にギャルゲーは複数設定されたヒロインの中から一人を選んで攻略してゆき、その過程で他の攻略対象キャラがフェードアウトして攻略ヒロインとの恋愛をメインとしたストーリーが展開してゆく。
他のキャラのストーリーを見たければ、一からゲームをスタートし直すか、分岐点からやり直す必要がある。
一つのタイトルの中に複数のヒロインと物語を抱えているのがギャルゲーなのだ。
ゆえに、たとえ原作の人気が申し分無いものだったとしても、その人気の源であるところの「キャラクター」や「ストーリー」は人によって支持するポイントが様々あり、アニメという別の媒体に作品を移した時、そのすべてを完全にフォローするのが不可能になってしまう。
「恋愛ゲームのアニメなんだから、誰かと恋愛を成就させてエンディングを迎えなければ作品としてまとまらない」
「誰かと結ばれるとするならそれは誰だ?どう決める?」
「結ばれなかったヒロインのファンは納得しないだろう。どうする?」
などなど、「原作をそのままなぞるわけにはいかない」という難しさがここにはある。



こうしたジレンマに対し、先人たちは様々な知恵を絞ってギャルゲーのアニメ化に挑んで行った。
大半は主人公との恋愛を最後まで進ませずに次々といろいろなキャラのシナリオをつないでゆく方式を採用し、それぞれのキャラクターにスポットを当てつつ最終的にメインヒロインと結ばれるかそうでないままお茶に濁すパターンに落ち着いている。
これはこれで各サブヒロインたちをどう扱うかのバランス感覚が求められるが、こうしておけば原作のそれぞれのヒロインのファンもある程度アニメを楽しめるし、結末にも大体納得してもらえる。
しかし中には主人公が一切登場せずに、各ヒロインが主人公への思いを何となく吹っ切るオムニバス形式の作品(センチメンタルジャーニー)や、複数ヒロインに対して複数主人公を用意した作品(キミキス)、キャラクターとメインの設定だけ引き継いで全く別のモノに仕上げた換骨奪胎な作品(フタコイオルタナティブ)などもあり、ギャルゲーのアニメ化にあたって毎度毎度スタッフが苦心している跡が見受けられる。



そんなギャルゲ原作のアニメ化における新基軸となり得そうな方式を採用したアニメが絶賛放映中の「アマガミSS」と「ヨスガノソラ」だ。
どちらも複数のヒロインが登場する、システム的にはごく基本的なフォーマットの上に乗った「ギャルゲー」だが、アニメではそれぞれのヒロインのストーリーをより深められるよう、変わったシリーズ構成になっている。
アマガミSS」は、攻略ヒロイン六人それぞれに4話ずつ、出会いからエンディングまでの物語が用意されている。具体的には、一人のヒロインの物語が終了すると、次週からはまた何事も無かったかのように「スタート地点」に戻り、別のヒロインとの恋愛の物語が始まる、といった具合だ。
一方「ヨスガノソラ」は、共通の導入部である1、2話の後、「分岐点」から1人のヒロインのシナリオに進み、こちらもエンディングの後「分岐点」まで話を巻き戻して別のヒロインのシナリオをやり直す形だ。
これなら原作に登場する複数のヒロインにまんべんなくスポットを当てることができ、出番の偏りからファンの不満を招くおそれが無い上に、無理やり一つの時間軸の中に複数のヒロインのシナリオを詰め込んで作品を破綻させる危険も回避できる。
ファンにもスタッフにも優しいWin-Winな方式だ!これから先のギャルゲアニメは全部こうすればいい!と思われるかもしれないが、ここには一つ、製作側が打った大きな「博打」がある。



通常、ギャルゲアニメに限らずアニメ作品の「評価」を決めるのは関連商品の売り上げである。
とりわけ深夜アニメでメインとなるのは「ソフト(DVD/BD)」となるわけだが、通常のアニメでは全巻購入するのが基本となるのに対し、このアマガミSSやヨスガノソラのようなオムニバス形式を採用した場合、特定のヒロインのみ購入して終わり、全巻購入に至らないというケースが珍しくなくなる。一話から最終話までひと続きのストーリーとするよりも、ユーザー一人当たりの購入単価が下がる(ことが明らかな)方式なのだ。
ゆえに、オムニバス形式にしてもある程度の売り上げが見込めるという公算があった上でなければこの方式にはGOが出ないのだ。
今回のアマガミSSとヨスガノソラのソフトのリリース形式を見てみると、アマガミは一人のヒロインにつき2話ずつ収録した上下巻構成、ヨスガノソラは1人のヒロインにつき共通話と個別のストーリーを収録して1本としている。アマガミのような2クールアニメで1本につきたったの2話で済ませることは珍しいし、ヨスガノソラのようにわざわざ全巻に同じ映像(共通の1、2話)を収録するという仕様から考えるに、最初からキャラごとにバラバラにして販売することを前提としているのは明らかだ。コアなファンに全巻購入させなくとも、それぞれのキャラのファンに好きなキャラのソフトを購入させてれば一定の収益は見込めるという判断があったということだろうか。



いずれにせよ、この「原作ファンに優しい」オムニバス形式が今後定着するかどうかは、この2作の反響いかんにかかっていると言っても過言ではないだろう。
アマガミ方式・ヨスガ方式は新たなるギャルゲ原作アニメのフォーマットとなり得るのか。今がその「分岐点」だ。




(追記)
とはいえ、「ギャルゲ原作アニメをいかにアニメ向けに再構築するか」というのは、各アニメ制作スタッフの腕の見せ所であり、それもまたアニメの楽しみだと思っているし、オムニバス形式では各キャラごとの時間的制約から、原作ほど深く描ききることが容易でない可能性が高いので、安易にこの方式を取られるのもどうかなぁというのが正直な所です。



(2010/12/23追記)
本記事で扱った作品も含めた「ヒロインオムニバスアニメ」をについては、「ヒロインオムニバスアニメとセラフィムコール」(クソアニメをひたすら愛するブログ)
↑こちらでかなり網羅的に解説・考察されています。すごい、情報の、量!



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